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その病室の中は昼間なのに暗く、少女はまるで亡霊のようにそこで佇んでいた。
ベッドの脇にあるのは視覚障害者用の白杖。少女はその瞳に虚空を携えて、佇んでいた。
少女の名は新名弥栄(あらなやえ)後天的な全盲で、その影響で、弥栄は人に対し心を閉ざしていた。
医師を拒み、見舞いを拒む。視覚による情報が無いことによって、彼女は誰もを信用しなかった。
完全な人間不信に陥った彼女は近いうちに精神科への移動が決まっていた。
病室ですら気を許さぬ彼女が唯一落ち着ける場所、そこはトイレだった。
個室に入り、鍵を閉めれば自分だけの空間。
病室の扉を開け、左に5歩、右に3歩。
たったそれだけの距離。白杖を使うことすら煩わしい程だった。
個室に入り、鍵を閉めて。
手に持った音楽プレイヤーで音楽をかける。
もはや人の声を聞くことすら嫌がる弥栄が聞くのは誰の声も入らないクラシックだけだった。
メンデルスゾーンの優雅なクラシックを聞いているうちに、弥栄は個室の中で眠ってしまっていた。
目を覚ましたとき、あたりまえながら同じ個室にいた。
そして後悔する。
(変な時間に寝たから、今何時で、どのくらい寝てたかが把握できない……)
そう思いながら個室を出る。
そのまま寝起きのふらついた足取りで病室に戻り、扉を閉めようとしたそのときだった。
ガッシャ――――――ン!!!
と豪快な音を立てて弥栄の部屋に何かが突っ込んだのだった。
「キャッ」
小さく悲鳴を上げて尻餅を着く弥栄。そのまま、何も映さぬ瞳で音のした方を見る。
「っ痛ー」
という声と、何かの車輪が空回りする音が弥栄の耳に飛び込んだのだった。
---to be continued---
その病室の中は昼間なのに暗く、少女はまるで亡霊のようにそこで佇んでいた。
ベッドの脇にあるのは視覚障害者用の白杖。少女はその瞳に虚空を携えて、佇んでいた。
少女の名は新名弥栄(あらなやえ)後天的な全盲で、その影響で、弥栄は人に対し心を閉ざしていた。
医師を拒み、見舞いを拒む。視覚による情報が無いことによって、彼女は誰もを信用しなかった。
完全な人間不信に陥った彼女は近いうちに精神科への移動が決まっていた。
病室ですら気を許さぬ彼女が唯一落ち着ける場所、そこはトイレだった。
個室に入り、鍵を閉めれば自分だけの空間。
病室の扉を開け、左に5歩、右に3歩。
たったそれだけの距離。白杖を使うことすら煩わしい程だった。
個室に入り、鍵を閉めて。
手に持った音楽プレイヤーで音楽をかける。
もはや人の声を聞くことすら嫌がる弥栄が聞くのは誰の声も入らないクラシックだけだった。
メンデルスゾーンの優雅なクラシックを聞いているうちに、弥栄は個室の中で眠ってしまっていた。
目を覚ましたとき、あたりまえながら同じ個室にいた。
そして後悔する。
(変な時間に寝たから、今何時で、どのくらい寝てたかが把握できない……)
そう思いながら個室を出る。
そのまま寝起きのふらついた足取りで病室に戻り、扉を閉めようとしたそのときだった。
ガッシャ――――――ン!!!
と豪快な音を立てて弥栄の部屋に何かが突っ込んだのだった。
「キャッ」
小さく悲鳴を上げて尻餅を着く弥栄。そのまま、何も映さぬ瞳で音のした方を見る。
「っ痛ー」
という声と、何かの車輪が空回りする音が弥栄の耳に飛び込んだのだった。
---to be continued---
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